蟲が生きる

生きることは戦うことでしょう?

仕事中にちょっと頭がおかしくなってしまった

 印刷工(の下っ端の肉体労働者)をやっている。

 先日、厚紙の物件でへとへとに疲れていたとき(一日で約10トンの紙を積んだ)のこと、ちょっとした些細なことで機長に怒られて、胸をど突かれた。その時、なんか変なスイッチが入ってしまって、ほとんど思考の伴わないまま、虎に出くわした草食動物みたいに反射的に逃げ出してしまった。ほんとにこの人に殺されるような気がした。殺されるんじゃないかと思って手足がガクガク震えてしまい、「すみませんすみませんすみませんすみませんすみません」と言って土下座しそうになった。

 流石に機長も僕の尋常じゃない怯え方に意表を突かれたようで、怒りを収めて「どうしたんや、落ち着け」などと言った。

 しばらく手足の震えが止まらなかった。情けなかった。恥ずかしかった。

主人の気に触れて殺されそうになって必死に命乞いする奴隷みたいな、そんな感じ。泣きそうになったが、幸いにも体が疲れきっていて泣く体力が残っていなかった。

 先にスイッチが入ったと書いたけれど、たぶん逆で、疲労が限界に達してスイッチが切れてしまったんだろう。論理的思考のスイッチ、まともに振舞おうとするスイッチ、反抗心やプライドみたいなものとか。

 自分の「素」というものが見れた気がする。僕は、アリストテレスが言うところの奴隷に向いている人間なのだろう。「すみませんすみませんすみませんすみませんすみません」って何にも考えずに謝って土下座するのは、とても楽で、惨めな自分が、悲しげなヒロインみたいで、快感だった。