蟲が生きる

生きることは戦うことでしょう?

自作小説

ときには少年のように

大野ヤスヒロは27歳のフリーターだ。 彼は、人生を俯瞰するにはまだ若く、かといってその青春時代は遠く過ぎ去って、記憶の拠り所を喪失していた。 とはいえ、その喪失感をじっくり味わっていられるほどの余裕もなく、彼は今日もせっせとスーパーの品出しの…

ハローワークに行ってきました -Returns-

●過去作:蟲が生きる(@insecter_okr) - カクヨム ハローワークに行ってきました -Returns- 大野ヤスヒロが晴れて製本会社に入社し、慎ましくも幸福な一庶民としての人生を元気よく歩みだしてから、二年半が過ぎた。 残念ながら、彼の姿はまたしても職業安…

そのとき、僕は確かに魔法少女だったのです。

年甲斐もなく魔法少女のアニメーション映画を鑑賞した休日のこと、上映が終わり隣席に目をやると、私と同い年くらいの中年の紳士がボロボロと涙を流して嗚咽を漏らしていた。 「ひどく泣いていますね。大丈夫ですか? 良い映画でしたね。魔法少女の物語は僕…

コーラを撒いた日

私が小学校の五年生だった時、私はある一人の、今となってはとても印象的な同級生の男の子と、よく遊んだものだった。 彼は名を茅山といって、なるべく伝わり易く表現するならば、性根の腐った悪ガキだった。少なくとも当時の私にとって彼はそうだった。 私…

僕の応答

美少女ゲームを、した。 病気の女の子の物語。シンプルなシナリオ。 彼女はあえなく死んでしまった。家族と親友に恵まれて、幸せを噛み締めて、生きたいと思いながら、しかしあえなく死んでしまった。 僕は泣いた。命の残酷さと、それと対決せざるをえない人…