読者の皆様は「朗読少女」という名のコンテンツをご存知だろうか?
実のところ、私はその全容をよく知らないのだが、音声ブックコンテンツ・「朗読少女」シリーズとして、インターネット上で売られている朗読作品群であることは間違いない。
コンセプトとしては、乙葉しおりという架空の女性キャラクターが小説等を朗読してくれるという設定らしいが、キャラクター本位の余計な雑談や語りかけは一切無いので、純粋に、声優・ささきのぞみさんの朗読なのである。
ささきのぞみさんは、ジュエルペット・シリーズのサフィー役と言えばピンと来る人も多いだろう。Wikipediaによると、彼女は相当な読書家で活字中毒者だそうだ。さすれば、この仕事にも相当の熱意と愛情を注がれたに違いない。
ラインナップはまずまず充実していて、芥川龍之介、宮沢賢治、コナン・ドイルなど、国内外の有名な短編小説および詩がある。「時をかける少女」という比較的新しい小説もあった。
私は試しに「フランダースの犬」の前編を買って聴き、良かったので、後編も買って聴いた。
タイトルの後にマリールイーズ・ド・ラ・ラメーという早口言葉みたいな著者名がゆっくりと読み上げられる。訳は菊池寛。
朗読がとても良い。
地の文はわりあい高めの落ち着いた声。台詞はきちんと声色が変わりながらも、演技臭さを感じさせない、絶妙なバランスだった。
全編通して聴いた感想、
「なんだこの化け物みたいな泣きアニメは!!!!!」
もうネルロが可哀想で仕方ない。そしてパトラッシュの愛と忠義に泣かされまくる。こんな悲しい物語がこの世にあっていいのか!?
私は聞き終わって、自分は絶対に、我が身可愛さにネルロを遠ざけ冷たく当たった村人達のようにはなりたくないと、強く思った。組織や社会の呪われたしがらみに囚われて、人にやさしくできないことがあってはならない。ネルロのように、例え死ぬほど困窮している時にも、献身的に、正直に、生きなければならない。
そしてまた、身寄りを失い、商売の安定を失い、コミュニティから疎外されたネルロが、瞬く間に、それまでの慎ましくも幸福な生活を根こそぎ奪われて、路頭に迷い死んでしまったことにショックを受けた。何故ならそれは、私自身の行く末を暗示し警告するようだったから。仕事をせず、人とも会わず、親も年老いてきた私は、もしかしたらある日突然生活が立ち行かなくなり、乞食になってしまうかもしれない。そんな恐怖を覚えた。
それにしても、朗読というのは良いものだと思った。流石に、洗練されたボイスドラマと比べると、聴き続けるのに集中力を要するが、ボイスドラマとはまた全然違う没入感がある。
ありがとう、朗読少女。